天満つる明けの明星を君に【完】

「頭が見えましたよ!もうすぐ産まれてきますからね!」


――産婆はそう励ましてくれたが、雛菊は大量の出血で視力を失い、力を振り絞って天満の頬に手を差し伸べて触れた。


「ごめんね…天満さん…」


「え…?何を…何を謝っているの?雛ちゃん、もうすぐ産まれてくるんだよ、だから頑張って…」


「ああ…もうあなたのきれいな顔が見えない…。あなたの顔…あなたの手…とっても好きで…小さな頃から本当は好きだったんだよ…」


雛菊の告白を受けた天満は、雛菊が生きることを諦めていることを知って視界がぼやけながらも頬に伸ばされた手をぎゅっと握って歯を食いしばった。


「過去形で話すのはやめようよ…。雛ちゃん、僕らに赤ちゃんが産まれて、ふたりでもっと幸せになるんだよ?なんでそんな…」


「私…もう分かってるの。私は助からない…」


「雛ちゃん!!」


思わず語気を荒げた天満は、全てを失う恐怖に身を震わせて叫んだ。


「雛ちゃんも赤ちゃんも助かる!僕らの未来は明るくて…一緒に色んな場所に出かけて過ごすんだ…そう約束したでしょ…!?」


「でももう…決まってることなの。天満さん…ごめんなさい…」


多量の出血で、全身が大きく震えた雛菊の身体を抱きしめた天満は、足元に居る産婆を血走った目で見つめた。


「赤ちゃんは!?」


「もう腰まで出てきて…ああでも泣き声が…」


産声を上げるはずの赤子は泣かなかった。

天満は妻と子を一気に失うかもしれないという考えもしなかった結末に、心が壊れそうになって声を震わせた。


「なんでもいいから助けて…!雛ちゃんと、僕たちの赤ちゃんを…!」


その願いは虚しく――雛菊の顔色はみるみる白くなっていった。