まず助けを呼ばなければ、と思った。

自分ひとりではどうすることもできず、雛菊を床に寝かせると転ぶようにして机に向かって引き出しから晴明に譲ってもらった札を取り出した。

ただし用件を悠長に書いている時間はなく、産婆宛てに一言だけ‟至急来て下さい”と書くと共に、朔宛てにはきっと全て察してくれると信じて白紙でありったけの念を込めて空に向けて飛ばした。


「雛ちゃん、もうすぐ産婆さんが来るから!ああでも産まれてくるにはまだ早い…!」


「痛い…天満さん、痛い…っ」


帯を緩めて着物を脱がせると――駿河の爪が食い込んだ傷口からは絶えず出血していて、そして腹全体に――どす黒い血管が浮き出て脈打っていた。

それを見た時――ああこれは駄目かもしれない、と思った。

思ったと同時に自らの頬を強く叩いた天満は、雛菊の手を握って鼓舞するように何度も言い聞かせた。


「ちょっと早いかもしれないけど、産気づいてるんだから早く産まれて来たいんだよ。雛ちゃん大丈夫。流れに任せよう」


「赤ちゃん…このことだったの…!?だからあなた、あんな悲しい顔をして…!」


「雛ちゃん…!?」


「産まれてきちゃ、駄目!駄目…っ」


――雛菊の全身に走るどす黒い血管が気にかかった。

‟闇堕ち”した駿河も同じような姿で、もしこの現象を雛菊がその身に受けてしまったのならば――


「‟闇堕ち”は…伝染するのか…!?」


「あ…ぁ…っ!」


腹がぼこぼこと脈打った。

天満は思わず脈打った場所を手で押さえて、雛菊に覆い被さるようにして鼓舞し続けた。


「頑張れ…頑張れ雛ちゃん!」


そう鼓舞しながら、駿河の急襲に間に合わなかった自身を強く責め続けた。