天満つる明けの明星を君に【完】

今までは、妊娠して悪阻が始まった数週間後には――流れてしまって、今回だけは絶対にそれだけは避けたいと願って、晴明の煎じる薬に頼った。


「体質かもしれぬが、恐らく精神的な負荷がとてもかかっていたのだと思う。この粉薬は気を落ち着かせるもので身体に一切害はない。まあ、好いた男の傍に居るのが何よりの薬だと言っておこう」


安倍晴明は人と九尾の白狐との間に産まれた半妖であり、人の手助けをする陰陽師でもあり、薬師でもある。

何度か飲んでみたが、飲む度に心が落ち着いて悪阻も以前ほどは激しくなくなり、睡魔もやって来て天満の傍で安心して眠ることができた。


「さっき雛ちゃんと話したんですけど、白無垢は着たいって言ってたから、ささやかでいいので祝言を挙げたいと思います」


「うん、それがいい。正式な祝言を挙げることでもしかしたら精神的にも安定して好転するかもしれないからな」


「弟妹たちには俺から知らせの文を…」


「いえ、雛ちゃんが緊張するだけなので本当にここに居る者たちだけでいいです」


「そうか。じゃあ数日中に手配するから待っていてくれ」


何から何まで朔や父母たちの助けを借りることになった天満はひと際頭が上がらなくなり、朔はそれを笑ってぐりぐり頭を撫でた。


「そんなに怖じ気づくな。本当は母様なんかお前や雛菊に纏わりつきたくて仕方ないのを我慢しているし、雪男だって産まれてくる子はやっぱり俺が教育係かな、なんて鼻の穴を膨らましているんだからな。皆がお前たちに頼られたがって仕方ないんだ」


「でも甘えすぎちゃっていいのかなあ…僕この屋敷を出て行ってそんなに経ってないのに」


「うちは溺愛体質だし過保護体質なんだ。素っ気なくすると悲しむ」


自らも溺愛体質で過保護な自負のある天満は、朔と縁側で春の日差しを浴びながら笑い合った。

雛菊に白無垢衣装を着てもらい、祝言を挙げる――

きっと美しい花嫁になるだろう。

想像するだけで胸が熱くなって、滲む空を見上げた。