天満つる明けの明星を君に【完】

寝ている雛菊の元を訪れた天満は、上体を起こして座っているのを見て慌てて駆け寄った。


「雛ちゃん起きてて大丈夫?」


「うん、ずっと寝てるのも悪いっていうし…」


「そっか。でね、雛ちゃん…訊きたいことがあるんだ」


雛菊は天満の透き通った美貌が何か言いたげに見えて、悟った。

自分も言わなければと思っていたことでもあり、言い出せなかったことでもあった。


「赤ちゃんが…流れやすいこと?」


「!うん…言いにくいことだろうから無理には訊きたくなかったんだけど…」


「…駿河さんね、私が妊娠した時は暴力を止めてくれてたの。でも私結局毎回流れちゃってて…生前お父様がお母様も何度も流れたって言ってたから体質なのかも」


「そっか、対策はありそう?」


「じっとしてても適度に動いても変わらなかったからないんじゃないかな…。でも天満さん!私、今度こそは絶対に…絶対に産んであげるから」


強い決意に漲る目で拳を握ったその手をそっと包み込んだ天満は、雛菊の悪阻が落ち着くまではここに留まろうと決めた。

ここには薬に明るい晴明が居て、絶えず注意を怠らない雪男や山姫が居る。

何より朔が居てくれるだけで心強くて、不安な雛菊をきっと息吹が励ましてくれるだろう。


「雛ちゃん、悪阻が落ち着くまでここに居よう」


「え、でも…」


「あっちに戻ったらずっと君の傍に居ることができないし、ここだったら目が行き届く。だから僕からもお願いします」


頭を下げた天満のさらさらの前髪を指で梳いて撫でた雛菊は、小さく頷いて同じように頭を下げた。


「私もここに居たい。よろしくお願いします」


そしてふたりで朔の元へ行ってまた頭を下げた。

朔は大きく頷いて微笑み、好きなだけ居るといいと言って迎えてくれた。

その後晴明にも薬を煎じてもらいたいとお願いして、屋敷に居る全員に会いに行き、皆から歓迎されて雛菊と手を強く取り合った。