天満つる明けの明星を君に【完】

正直言って、祝言どころではなくなった。

思いの外雛菊の悪阻が激しく、寝込む度に天満は気が気でなくなり、息吹に何度も大丈夫なのかと問い詰めていた。


「あのね天ちゃん。私は何人産んだと思う?」


「え、えーと…」


「十本の指じゃ収まらないほど産んだんです!悪阻なんて毎年だったこともあるし、悪阻があるから逆に赤ちゃんを育んでるんだなって私は思ってたよ。雛ちゃんもきっとそう思えるから」


「でも…」


「大丈夫!天ちゃんは父親になるんだからどんと構えてないとね」


――だが天満は駿河の生死と動揺危惧すべき点があった。

息吹は楽観的だが雛菊の過去の事情を話していない天満は、茶を飲む息吹の膝に手を置いて言い募った。


「雛ちゃんは過去に何度か赤ちゃんが流れているんです」


「え…そうなの…?それは…暴力で…?」


「繊細な話だから僕も深く事情は訊いていません。まさか悪阻が激しくて流れたりは…」


「それはないと思うけど…父様、どう思う?」


息吹の言う‟父様”とは義父の安倍晴明のことであり、晴明は薬箱を整理しながら首を振った。


「それはないだろうね。流れやすい体質なのか、はたまた心的か外的か…暴力を受けて流れたか…それを訊かないとこちらも態勢を整えられないのだが…天満、訊けるかい?」


「分かりました。雛ちゃんの体調が良い時に訊いてみます」


「とりあえず祝言どころじゃなくなっちゃったね。悪阻が収まればどんどんお腹が大きくなるし、産まれてからにする?」


「それも訊いてみます」


不安そうな天満の両隣に座った息吹と晴明は、代わる代わる天満の頭を撫でて不安を分かち合った。

誰でもはじめての子の時は緊張するし不安だ。


「大丈夫だよ天ちゃん」


子を多く産んで育てた母の言葉がとても心強く、何度も頷いて自身を鼓舞した。