天満つる明けの明星を君に【完】

鼻を啜った天満を見た雛菊もついもらい泣きしてしまい、ふたりでにこにこしていると、晴明から事情を聞いた息吹が飛び込んできた。


「天ちゃん!雛ちゃん!」


「息吹様!私…私…」


満面の笑顔の息吹が雛菊に駆け寄るのを見た天満は、ここはとりあえず大丈夫だと判断して、自身を落ち着かせるために庭に出てずんずん池の方へ歩いて行った。

父になる――まだ成人したてで若造の自分が父に。

もちろん不安はあったけれど、それよりも何よりも――はじめて愛した女との間に子ができたことは、天満にとって最高の授かりものだった。


「大切にしないと…大切に…」


「天満」


追いかけて来た朔に肩を抱かれた天満は、そこでようやく我慢してきたものを解放して目尻に溜まった涙を拭った。


「おめでとう。俺は叔父になるんだな」


「ははっ、こんな美しい叔父が居たら目が肥えそうでいやだなあ」


「だが天満、今以上に気を付けないと」


「え?」


「駿河が生きているとなれば、雛菊の妊娠を黙ってはいないぞ。あの男は雛菊に固執してそれを糧に死なずにいる。必ず目の前に現れるぞ」


…忘れていたわけではない。

朔も何度も百鬼を向かわせて調査はしているのだが一向に情報はなく、情報を網羅している朔でも生死が追えないのは逆に不気味だった。


「絶対離れません。僕が絶対に雛ちゃんと赤ちゃんを守るんだ」


「ん、お前の決意を雛菊に話してやれ。さ、今日はまた祝いづくめになるぞ、心してかかれ」


朔に背中を押されて再び雛菊の元へ戻った。

その頃には妊娠を知った雪男や山姫や十六夜たちが集まっていて、あたたかい祝福に包まれて嬉しそうにしている雛菊の笑顔がとても可愛かった。


「僕が守る」


強い決意を胸に。