天満つる明けの明星を君に【完】

間もなく晴明がやって来ると、天満は部屋を追い出されて廊下を行ったり来たりしていた。

朔は壁にもたれ掛かって天満が狼狽える様子を冷静に見ていたが――声をかけることなくただ黙っていた。


「朔兄、大きな病だったらどうしよう…」


「まあ病というか…違うんじゃないかな」


「え?何か知ってるんですか?知ってたら教えて」


つい朔に詰め寄って肩をがくがく揺さぶっていると、部屋の襖が開いて晴明がひょっこり顔を出して手招きしてきた。


「終わったよ、入りなさい」


「お祖父様、雛ちゃんは一体…」


「とりあえず中へ。朔もついでに入りなさい」


不安で胸がいっぱいのまま部屋へ入ると――雛菊と目が合い、ふわっと微笑んだため、幾分かほっとしたが…

雛菊の元に駆け寄って何が何だか分からず見つめていると、晴明が吹き出してくすくす笑った。


「そなたは父になるのだからもう少し落ち着かないといけないねえ」


「……え?父…?」


――何を言われているのか分からずぽかんとしていると、雛菊は天満の手を取って自らの腹にあてがった。


「私…赤ちゃんを授かりました。天満さんとの子を」


「え……え………っ、え!?」


つい大声を上げてしまって慌てて自らの口を手で塞いだ天満は、朔が小さくやっぱりと呟いたのを聞いて目を丸くした。


「赤ちゃん!?僕と雛ちゃんの!?そしてなんで朔兄は知ってるの!?」


「お前が挙げた症状を鑑みれば自ずと分かる。しかしめでたいな、母様が大喜びするぞ」


天満は言葉を失ってただただ腹にあてがわれた掌に集中した。

もちろんまだ動いたりはしないのだろうが…命を授かったと聞いて、感動して――ふいに涙が零れそうになった。


「雛ちゃん…」


「私…産んであげたい。絶対産むから。天満さん、この子を授けてくれてありがとう」


「僕こそ…雛ちゃん…ありがとう…」


幸せすぎて頭がどうにかなりそうだった。