天満つる明けの明星を君に【完】

如月を嫁に出した時は祝言を挙げることなく半ば勘当状態だったため、こうして祝言の準備をすること自体はじめてだった息吹は、やりすぎないように慎重になっていた。


「ねえ、でも幽玄町の皆さんにはお知らせしていいんだよね?」


「それは大丈夫ですけど、大名行列みたいに練り歩いたりはしませんよ。あくまでこの屋敷で身内だけでひっそり、です」


「ひっそりね、うん、分かった。任せて!」


皆で夕餉を食べながらわいわい祝言の話をしていると、少し酒を飲みすぎてほろ酔いになった雛菊は、天満にしなだれかかって腕に抱き着いた。

…なんだか見てはいけないものを見てしまったような面々がはにかんでいると、天満が慌てて雛菊の身体を起こした。


「雛ちゃんはしゃぎすぎだよ、みんなびっくりしてるから…」


「いいぞもっとやれ」


朔が挑発して天満を困らせる中、酒を呷りながらちらりと十六夜を見た。


「そういえばふたりきりの暮らしはいかがですか?」


「そこ聞いちゃう?あのね、十六夜さんったら…」


「…待て!何も言うな。変なことを口走るんじゃない!」


咳き込んだ十六夜に止められた息吹が唇を尖らせると、普段冷静沈着な男が取り乱している様を見た雛菊は、酒の勢いに任せて本音を口走った。


「でもおふたりとてもお似合いで…私も天満さんとおふたりのような夫婦になりたいです」


「雛ちゃん…」


「天ちゃんはとっても優しい子だから大切にしてくれるよ絶対に。ね、天ちゃん、そうでしょ?」


「それはもちろんですけど…なんかものすごく恥ずかしいからそろそろやめて下さい…」


本来恥ずかしがり屋の顔が出て口ごもると、朔が珍しく声を上げて笑い、立ち上がった。


「じゃあ俺はそろそろ行く。お前はついて来なくていいからな、ゆっくりしておけ」


ついて来ようと腰を浮かしかけた天満を止めた朔は、居間に通じる側の障子を開けて集結した百鬼たちに手を挙げて歓声に応えた。


「朔兄、気を付けて」


「ん」


朔の号令が響き、応じる歓声が沸き、百鬼夜行が空を行く。

もう直あの列に加わることができる――

手を振って見送り、再び食卓に戻って父母をからかって過ごし、雛菊は終始笑っていて穏やかな夜を過ごした。