天満つる明けの明星を君に【完】

どれだけ必死に捜しても、駿河の消息は分からなかった。

本当に死んでしまったのだろうか――だがあの男が‟堕天”して命を落とすことがあるのだろうか?

‟堕天”すれば並々ならぬ力が漲って暴れ回ると言うが…日高地方ではそんな情報を聞くことはできなかった。


「…というわけで、幽玄町に戻る日になりました」


「うん。天満さん、もう駿河さんのことはいいよ。生きてても死んでても私には関係ないから。私はあなたと共に生きて行く…それだけ分かってればいいの」


「そう言ってくれるとありがたいんだけど、でも僕の気が治まらないからこれからも捜し続けるけどそれは許してくれる?」


「うん。それより早く幽玄町に行こうよ。番頭さんにもちゃんと引継ぎしてきたし、私たちのこと、みんな祝福してくれて嬉しかったね」


玄関の戸にしっかり鍵をかけて雛菊の肩を抱いた天満は、だいぶ暖かくなってきて草が芽吹き始めた平地に目を遣って笑った。


「なかなか言い出せなかったけど、みんな知ってたって顔してたのがおかしかったなあ」


朔との文のやりとりで今日戻ることを知らせていたため、朧車が迎えに来ていた。

早速乗り込むとすぐ宙を浮いて動き出した中で、もうすっかり天満に甘えることに慣れた雛菊は、天満の膝に座って身体を預けた。


「あのお屋敷には住めないから幽玄町に住みたいって言ってもいいかな」


「ていうかここに住めって朔兄が言うじゃないかな。空いてる部屋は腐るほどあるし。雛ちゃんさえよければだけど」


「ぬ、主さまと同じお屋敷に!?むむむ無理だよ恐れ多い…!心臓がばくばくして破裂しちゃう!」


「…若干傷ついた僕でした」


ふたりの仲はどんどん深まっていた。

もう片時も離れないほど心はひとつに。