天満つる明けの明星を君に【完】

それからも多忙な日々は続いていた。

天満とて宿屋の運営にかまけているわけにはいかず、引き続き駿河の捜索と朔の手を煩わせる妖の討伐などを続けている合間にも、雛菊をあちこち連れて行ったり鍛錬に励んだり――とにかく目まぐるしく忙しかった。


「天満さん、ちょっとじっとできないの?」


「うーん、じっとしてる時は読書してる時と寝てる時位かなあ。雛ちゃんこそちゃんと息抜きできてる?」


腕の中でうん、と頷いた雛菊と目が合うと、顔をぱっと逸らされて額を人差し指で軽く弾いて叱った。


「ねえ、ちょっとこっち見て」


「え、なんで?用もないのにじっと見てられないもん」


「雛ちゃんあんまり僕と目を合わさないよね。ちょっと傷つくんだけど」


「だって天満さんの目の中って星がきらきらしてて…すっごくきれいな顔してるんだって天満さんこそ自覚した方がいいよ?」


肌と肌を合わせた熱もようやく冷めてきて、身体が冷えないよう雛菊を腕の中に抱え込んで丸まった天満は、そんなことを言いつつも鎖骨のあたりをじっと見ている雛菊を見て苦笑。


「雛ちゃんって大人しそうに見えて実は全然違うよね。噛み癖があるなんてびっくりだよ。僕の身体、どこかに穴が空いてない?」


「でも私駿河さんは噛んだことないもん。天満さんはなんていうか…美味しそう?本当は齧り付きたいのを我慢してるんだよ」


怖い怖いと身震いして笑わせた天満は、頬杖を突いて胸に頬ずりしてきた雛菊の頬に優しく触れた。


「家に送った白無垢は虫食いもしてないって言ってたし、来月には幽玄町で祝言だよ。そろそろみんなにも言わないとね」


「でももうみんな知ってるんじゃないかな…。恥ずかしいな、どうやって切り出そう…天満さん言ってくれる?」


「いいよ。じゃあちょっと眠ってあっちに戻ろう」


「その前にちょっと噛ませて?」


「噛むより…」


体勢を入れ替えて雛菊に覆い被さった天満、にっこり。


「もっと楽しいことをしようよ」