目覚めると…ものすごい至近距離に天満の寝顔があって飛び起きそうになった。


「心臓に悪い…」


「ん…あ…雛ちゃん起きた…?おはよ、少し寝るだけでだいぶ違うね」


うん、と言って頷いた雛菊をぎゅうっと抱きしめた天満は、ここで話をしておかなければまた戦場のような宿屋でゆっくりすることができないのが分かっているため、朔との話を言って聞かせた。


「祝言…ほ、本当にいいのかな。私二度目だよ?」


「回数は関係ないよ。むしろ二度も花嫁衣裳着れていいんじゃない?」


…恐らく鬼頭家初の存在になってしまうのではと気を揉んだが、恐らくあの家族はそういうことは一切気にしないだろう。

あんなに大らかで朗らかな一家の一員になれることが嬉しくて頬を赤く染めていると、天満の乱れた胸元が視界に入って両手で顔を覆った。


「雛ちゃん?」


「な、なんでもないよ。春に幽玄町で祝言だよね?分かりました。じゃあ早くお母様の白無垢を息吹様に見てもらわないと」


「どうせだから朔兄に持って行ってもらおうよ。その前に雛ちゃんの母上の白無垢を見てみたいな」


「いいよ、一緒に取りに行こ」


雛菊の生家はすぐ近くにあり、少しだけぬくぬくした後遅めの朝餉を食べて生家に向かった。

定期的に雛菊が掃除をしているためとても人が住んでいないようには見えず、中へ入ると押入れから大きな桐の箱を出して開けて見た。


「わあ、これは素敵だね」


「でしょ?でも私、駿河さんに嫁いだ時…これは着なかったの」


「え、どうして?」


「心から好いた方に嫁ぐ時に着たいと思ってたから…だから…」


照れて俯いた雛菊が無性に可愛くなって手を握った天満は、再び白無垢をきれいに箱に直して抱えた。


「じゃあ宿屋に戻ろう。そろそろ朔兄も起きてるはずだから」


雛菊の母から娘へ受け継がれる白無垢衣装――

袖を通した姿を想像して間違いなく絶対にきれいだと確信した天満は、待っていた猫又に乗り込んで一路宿屋に向かった。