幽玄町は人と妖が共存しているため、意識して町に出ることを避けている。

だが鬼陸奥は妖が住む地であり、朔は一切の遠慮をせず堂々と繁華街を見て回っていた。

…だが気にならないのは本人だけで、朔と出くわした者たちは圧倒的な美貌と伏し目がちでいてちらりと目を上げる時の妖艶さに次々と参ってしまって腰が砕ける者も多かった。


「あの…朔兄…戻った方が良くないですか?」


「俺は歩いてるだけだぞ。お前は俺に引き篭もっていろと言うのか?」


「違いますけど、僕ら悪目立ち……まあいいか!案内しますよ」


開き直った天満と面白がっている雪男と共に店をあちこち見て回り、その間にも屋根伝いに猫又が辺りを警戒しているのが見えた。

一応だが、朔に仇為す者が居ないかどうか――雪男たちは気を抜くことはない。


「母様も来たがっていたんだが、独占欲の強い鬼に阻まれて断念していた。あれは可哀想だったな」


「ははっ!父様はほんっとに嫉妬深いんだから」


朔や雪男はもちろんのことだが、天満もまた兄弟の中ではかなり美しい方に匹敵する。

ぽうっとされることも多かったのだが――いくら成長したとはいえやはり目を合わせることなく歩いているためそれには気付かず、朔たちをにやつかせていた。


「春には戻って来れそうか?お前の祝言、口出ししておかないと母様の手によってものすごく盛大なものになってしまうぞ」


「!?それは!駄目です!雛ちゃんも派手なのは望んでないので」


「だったら早めに戻って来た方がいい。一応俺もやんわり押し止めておくから」


「ありがとうございます。じゃあ後で雛ちゃんに早速話してみよう」


弟の幸せそうな顔を見て、なんか自分も幸せな気分になった朔は、天満の肩を抱いて心からの笑顔を浮かべてまた周囲をとろけさせていた。


「さあ、次はどこを案内してくれるんだ?」