天満つる明けの明星を君に【完】

常日頃、母の尻に敷かれている父の姿を見て来た。

鬼族は嫉妬深くて独占欲が強い――それもまた、父を見ていたから知っていた。

母に少しでも男が近付こうとすると、それはもう機嫌が悪くなったり殺意を発したりでよく母に怒られていたものだ。

だから、自分も父と同じ運命を辿ることに何ら違和感はなかった。

そして自分もまた嫉妬深い男であると理解していた。


「雛ちゃん、出入りしてる酒屋の旦那と仲いいんだね」


「うん、ずっと前から知ってるから。私が駿河さんに暴力を受けてることをなんとなく気付いてたみたいでよく気遣ってくれ…なんでそんなこと訊くの?」


掘り炬燵でぬくぬくしながら談笑していたふたりは、はたと見つめ合って口ごもった。


「何となくだよ。仲良しだなあって思っただけで…」


「天満さんだって女の従業員たちと楽しそうに話してるでしょ。言っておきますけど変な仲になったら…」


「な、ならないよ!みんなとはちゃんと親しくしておかないとって勇気を振り絞って話してるんだから…」


掘り炬燵の中で雛菊の足をつんと突くと、両足でがっしり挟まれて睨まれた。


「息吹様が言ってたけど、先代様は女たらしだったんだよね?天満さんに遺伝しちゃってたら私絶対許さないから」


「浮気なんて絶対しませんだから誤解しないで下さい女たらしの遺伝なんかしてません」


息継ぎする間もなく焦りまくると――雛菊が吹き出した。

許してくれたのかとほっとした天満は、蜜柑の皮を剥いてやりながらはにかんだ。


「明後日には朔兄が来るからね。喜んでもらえるように頑張ろうね」


「うん。頑張ろうね」


朔に喜んでもらえるよう全力を尽くす――

宿屋の再開を明後日に控え、ふたりは寝る間を惜しんで働き続けた。