天満つる明けの明星を君に【完】

いよいよ改装を終えた店内を隈なく見て回り、皆がてきぱき動いている様が気持ち良くて、鬼族の番頭の男の肩を叩いた。


「短期間でよく頑張ってくれたね。これだと朔兄にも胸を張って自慢できるよ」


「ええそれはもう皆が誇りを持って働いていますから。料理の味、接客の質、そして雛菊様に選んで頂いた色とりどりの調度類…全て完璧でございます」


――駿河一家が経営していた時とはまるでかけ離れていた。

鬼頭の三男坊が経営に関わっているとあってはその噂は鬼陸奥を出て遠くまで聞こえることになり、日高で駿河を追い詰めて数十もの妖を天満ひとりで打ち倒した話が何故か知られていた。

そんな強く美しい男が経営に関わっている――天満を一目見たさに予約はできないのかと問い合わせが殺到していて、雛菊は心中穏やかではなかった。


「天満さん?女の方の予約がとっても多いんだけど」


「ふうん?なんでだろうね?」


「……知らないっ。私、お風呂場の掃除をして来ますっ」


「??」


ぽかん顔の天満に番頭の男、苦笑。


「天満様目当ての女が多いということを言いたいのだと思いますが」


「え…っ。それは…いや…僕のせいじゃない…」


「嫉妬されてるんですよ。慰めに言った方がいいと思いますけど」


相変わらずの恋愛音痴な天満は、すかさず雛菊の後を追って無言で束子を手に壁をごしごし擦っている雛菊の手を柔らかく掴んだ。


「力仕事は僕がするよ。雛ちゃん、僕には雛ちゃんだけだからね」


「…それ、女たらしが絶対言う決め台詞みたいなやつだけど?」


「違います違います、僕はそんな器用じゃありません」


雛菊は怒るとかなり怖くて嫉妬深い――

だが天満にとってそれは心地よく、ふくれっ面の雛菊とは逆ににこにこしながら腕まくりをした。