天満つる明けの明星を君に【完】

改装や従業員の教育などを行いながら忙しく日々を過ごしていたが、そんな中でも天満は暇ができると雛菊を伴って鬼陸奥を出る機会を作っていた。

雛菊はほとんど鬼陸奥から出たことがなく、また天満も百鬼夜行に連れて行ってもらえるまではほとんど幽玄町から出たことがなかった。

だがこちらへ来てからは朔の手伝いをしていることもあり、他の集落や花々がきれいに咲いている場所など精通していて、天気が良いと出かけて行ってふたりの時を過ごしていた。


「天満様、今日はあったかくて空気が澄んでて気持ちいいね。おにぎりも味付けはお塩だけなのに美味しい」


「外で食べると美味しいよね。ところで雛ちゃん、そろそろその‟天満様”っていうのやめない?」


えっという顔をした雛菊があからさまに嫌がったため、天満は膝を抱えて唇を尖らせた。


「駄目?僕たちほぼほぼ同い年でしょ?なんか壁があるみたいで僕は嫌なんだけど」


「だってもう言い慣れてるから…。じゃああの…天満さんっていうのは…どう?」


少し恥ずかしながらそう言われると、それが伝染してしまって天満も頬を赤らめながら片手で口を覆って頷いた。


「うん、それでもいいかもね」


「天ちゃんっていうのもありだけど」


「いや、それはちょっとやめて…」


「ふふ、分かりました。じゃあ天満さん、そろそろ戻ろうよ。今日改装が終わるんだったよね?」


「そうだよ、七日後には華々しく再開させることができる。初日には朔兄が泊まりに来るって言ってたから緊張しないようにね」


「う、うん」


雛菊を抱き寄せて背の低い山の山頂に降り注ぐ温かい日差しを浴びながら、またおにぎりを食べた。

そうして過ごしながらも、駿河の捜索は続けていた。

必ず生きている――そんな確信があった。