天満つる明けの明星を君に【完】

張り紙をした直後から、宿屋に掃除がてら毎日出向いていた天満は、出入り口に長蛇の列ができているのを見て思わず足を止めた。

従業員は自分が面接して決めようと思っていたのだが――元来の人見知りが仇になって立ち尽くしていると、天満を見つけた就職希望の面々はあっという間に天満を取り囲んで、うっとりしたり絶句したり興奮して捲し立てたりで、天満を圧倒していた。


「ぜひこちらで働かせて頂きたく!」


「命果てるまでお尽くし致します!」


「え、ええと…」


――そこで朔から‟嘘でも堂々としていろ”と言われていたのを思い出した天満は、一度大きく深呼吸して、ぱっと作り笑顔を浮かべると、暖簾を上げて白い歯を見せた。


「じゃあひとりずつ話を聞きますから、どうぞ中へ」


やはりこの宿屋には鬼頭一族が絡んでいる――

天満と雛菊の仲を知らないながらもそんなことは最早どうでもよく、いい働きを見せたならばもしかしたら鬼頭一族と縁を結べるかもしれないという下心がありありだったが、それでもとりあえずいいと思った。

元々屋敷には山姫や雪男といった有能な側近が居たため、目は肥えている。

あそこまでの有能さを求めるのは酷なためある程度人柄が良くて相性が良さそうだったら、多めに雇うつもりでいたのだが――

天満の面接は朝から夕方までかかってしまい、家で待っていた雛菊はくたくたになって戻って来た天満を見て思わず駆け寄った。


「天満様!大丈夫!?」


「う、うん、大丈夫…。雛ちゃん、宿屋の再開は早そうだよ」


「え?どうして?」


「結構働き手希望が多くて、経験者も居たから。後は雛ちゃんと僕でびしばしやれば大丈夫。一緒に頑張ろうね」


「はい!」


雛菊は内装や調度類の選定を進め、目途としては再開の予定はひと月後と定めた。

まず朔に泊まりに来てもらいたい――

天満は文にそうしたためて、文を飛ばした。

やったことのないことをやるのはとても楽しくて、引っ込み思案で人見知りな性格だったが、徐々に皆に心を開くようになり、皆との団結を深めていった。