天満つる明けの明星を君に【完】

雛菊は日に日に明るくなっていった。

なにぶん鬼頭家には後ろ向きな性格の者は天満しか居ないため――いや、天満も世間一般で照らし合わせれば楽観的な方なのだが、あの家族たちと触れ合ったことで雛菊は明るくなり、よく笑うようになった。


「さてと、朔兄から資金も到着したことだし、募集をかけよう」


「す、すっごい大金…!」


「悪いけど僕は湯水のように使うよ。もちろん無駄遣いじゃないよ、調度類の総入れ替えとか改装に使うからね」


いつの間にか宿屋の再開計画は天満が仕切っていたのだが、雛菊はそれをとても心強く思っていた。

自分ひとりでは絶対に思いつかないようなことを天満はすらすらと思いついて目を丸くしていると、天満は机に向かいつつ何でもないことのように言ってのけた。


「ああ、僕たちお祖父様や外から招かれる様々な分野の師から色々教わってるからね。特に幽玄町というひとつの大きないわば経営をしてるから、その辺は特に重点的に教わったし、兄弟たち全員ある程度できるんだ」


「ふうん、すごい…。私なんにもできないけど、よろしくお願いします」


「雛ちゃんには改装が済んだらすごく働いてもらうよ?調度類の目利きとか改装の時に壁の色を何色にするとか、女の子の方が審美眼があるからね」


「はい」


――鬼陸奥に戻って来てからふたりは足繁く閉鎖された宿屋に灯りを入れて通い詰めていた。

そうしているうちに次第に‟宿屋が再開されるようだし、しかも鬼頭一族が関わっている”とまことしやかに噂されるようになっていた。

その噂も耳に入っていたが、敢えて否定はせず、天満は堂々と宿屋の暖簾に‟従業員募集中”と張り紙をして見せた。


「沢山集まってくれるといいなあ」


それは全くの杞憂に終わることになる。