空気が動く気配がして目覚めた天満は、隣で寝ていたはずの輝夜の姿がなくなっていて、目を擦りながら朔の身体を揺すった。


「朔兄、輝兄が…」


輝夜が寝ていた床にはまだ温もりがあった。

部屋を出ると雪男が座っていて、挨拶をした後輝夜が居ないことを言うと、雪男は首を振った。


「いや、ここからは出てないぜ。居ないのか?」


――やられた、と思った。

別れの苦手な次兄は、誰に別れの言葉をかけることもなくひっそりと姿を消したのだ。

歯噛みした天満が振り返ると――朔は起き上がっていたが、俯いていてその表情は見えなかった。

だが今どんな顔をしているかは、分かった。


「朔兄…」


「あいつはまた……仕方ない奴だな」


「行ってしまったんですね。寂しい…」


傍に座ってしょげる天満の頭を撫でた朔は、一緒に部屋を出て居間へ行くと、輝夜が去ったことを両親に伝えた。


「え…輝ちゃんもう行っちゃったの…?」


「はい。次はいつ戻って来るか分かりませんが…でも元気にしているようだったから安心しました」


息吹も同じようにしょげていたが、十六夜が労わるように背中を撫でると、一度頷いて顔を上げた時には笑顔に戻っていた。


「じゃあみんなでご飯食べよ!」


雛菊はまだ表情の晴れない天満の少し冷たくなった手を摩って身体を寄せた。

天満もまたすぐ笑顔に戻ったが――一家は一瞬間違いなく悲しみに暮れて、輝夜が彼らにとって特別な存在だと知った。


「雛ちゃんの作ってくれた煮物すっごく美味しいね。後で作り方教えてね」


「はい、私も息吹様に沢山教えて頂きたい料理が…」


「沢山教えてあげるね」


本当の娘のように扱ってくれる息吹に感謝しつつも、ほとんど輝夜と話ができなかったことを悔やみつつ、天満にぴったりくっついて寂しさを共有した。