雛菊は夏の日差しを避けるために番傘を差した雪男を見上げていた。

細身だがとても背が高く、肌が真っ白で、髪と目の色が真っ青で、とてもきれいな男だなと思っていた。


「よし、行くか。言っとくけど買い食い禁止だからな。あ、雛菊はいいぞ、なんでも買ってやる」


「ずるい!僕たちもなにか食べたい!」


「うっせえ!客人が来てるんだから今日は息吹が張り切って飯作ってるんだ。お前ら想像してみろ。飯食べ残してがっかりしてる息吹の姿を」


天満と朔は息吹ががっかりしている姿を想像して顔を見合わせると、力強く頷いた。


「買い食いしない!」


「それでいい。天満、はぐれないように雛菊の手を繋いでてやれよ。俺は無理だから」


「うん」


雪男は人肌だけでも触れ合うと火傷してしまい、触れた側は凍傷を負ってしまう。

朔はそうならないよう雪男の袖を握って歩き、天満はぎくしゃくしながら雛菊の手を繋いで屋敷を出た。


「私…櫛が欲しいな。買ってもらっていいんですか?」


「おう、可愛いのあるといいな」


にかっと笑った雪男に雛菊が若干ぽうっとすると、こちらも若干むっとした天満がぐいぐい手を引っ張って先行して歩き出した。


「天満様?」


「僕が案内してあげます。可愛い櫛が沢山売ってるお店を知ってるからそこに行きましょう」


「わあ、楽しみ」


――話が弾んでいる。

雪男がにやにやしていると、朔は握っていた袖を強く引っ張って立ち止まらせた。


「なんだよ」


「お前も縁談のこと知ってたんだな?」


「ああ、まあ俺一応側近だからな。でも断るんだろ?雛菊は知らないみたいだからいい旅の思い出として沢山遊んでやれよ」


「俺は天満の嫁候補としてなら有りと思ってる」


「へえ?」


確かに女子と楽しく会話をしたり、女子と手を繋いで歩いている姿をはじめて見た雪男は、さらににやついた。


「ふうん、すんげえ想像できないんだけど、お前より先に天満が嫁さん貰うかもしんないな」


「うん、俺はきっと父様みたいに晩婚になると思うから天満や輝夜が先かも」


前方からはきゃっきゃと楽しい声が上がっていた。

朔と雪男は頬を緩めながら、純情で初心で奥手な弟の恋模様を見守ってやろうと決意した。