朔たちが早くに帰ってきていることは知っていたが、中からとても楽しそうな声が聞こえたため、雛菊は遠慮して部屋に下がっていた。

だが天満が戻って来る気配は一向になく、朝になって様子を見に行くと、朔の部屋の前には雪男が座っていて唇に人差し指をあてて静かにするよう伝えてきた。


「騒ぎ疲れて寝てるから、もうちょっとこのままにしてやってくれ」


「ちょっとだけ見たいんですけど…駄目ですか?」


「ちょっとだけだぞ」


こそこそしながら雪男が少しだけ障子を開けると、三人が川の字になってすやすや眠っていた。

そのあまりに無邪気な寝顔にきゅんときた雛菊は、すぐ障子を閉めて両手で顔を覆った。


「可愛い…」


「あいつらの寝顔見れるなんて貴重だからな。ていうか天満の嫁さんになれることこそが奇跡だぞ。あいつに嫁さんが来るとはなあ」


毒づいているように聞こえるが、実の所は愛情に溢れていて、胸が詰まった。

雪男は天満が産まれる前から知っていて、産まれてからは良き友として今までの時を過ごして来たのだろう。


「そうですよね。私は幸せ者です」


「や、天満が幸せ者だ。あいつはさ、人見知りだし引っ込み思案だし、でもすげえ強いから女が寄って来る。でも話せないだろ?あいつは婚期が遅れるって思ってたけど、こんなに早く嫁さん貰うなんてな」


「わ、私!天満様を大切にしますから!心配しないで下さい!」


一瞬雪男はきょとんとして、その後爆笑してその笑顔があまりにも素敵で思わず見惚れてしまった。


「ははっ!それ天満の台詞だろ?まあ互いにそう思い遣っていればうまくいく。天満をよろしくな」


こちらこそ、と頭を下げていたところに起きてきた息吹がたすき掛けをしながら笑顔で声をかけてきた。


「おはよう雛ちゃん!ご飯作るの手伝ってもらえる?」


「はいっ」


今日、鬼陸奥に戻る。

いつかまたこの温かい家族と一緒に住めることを願いながら、台所に向かった。