夜明け前に戻って来た三人は、朔の部屋でわあわあと声を上げて騒いでいた。

酒を持ち込み、枕を投げ合い、床に寝転んで朝まで他愛ない話をして過ごす――そんなひと時が彼らにとって至福の時なのだ。

朔は当主になって責任感がさらに強まり、肩の力が抜けなくなった。

輝夜はこれから起こるであろう出来事を口にすることができず、葛藤していた。

天満は駿河を仕留められなかったことで雛菊の憂いが晴らせないことを後悔していた。

そんな中三兄弟が揃い、互いの悩みや鬱憤を晴らして過ごせるこのひと時がどれほど大切で重要なことか。


「みんな色々あるんだなあ」


「それはそうですよ、ですが私は家のしがらみから逃げ出した者ですから、兄さんやお前には頭が上がりません」


「輝夜…お前はまた行ってしまうんだな?」


「…ええ、ですがいつかきっと…」


そこで黙った輝夜の頭を無言でぐりぐり撫でた朔は、勢いよく布団を被ってぼそりと呟いた。


「またいつかお前たちと一緒に暮らしたい」


「朔兄、遠い未来じゃないですよ。僕きっとすぐ戻って来ますから」


「…兄さん、私もそう願います。待っていて下さい」


「…うん」


小さく聞こえた声に、兄の肩に乗っている重荷を感じた。

弟たちの行く末を案じ、家業をしっかりこなさなければならない重圧を感じ、それを誰にも話すことなく日々戦い続ける朔のことを思うと視界がぼやけてしまった。


「もうちょっとみんなで話そう。その後また風呂に入って朝餉を食べて、天満と輝夜を見送る」


「はい、兄さん」


「はい。…くらえー!」


布団を被った朔目掛けて枕を振り下ろすと、しばしの沈黙後――朔の反撃が始まり、勢い余って障子に穴が空いてしまい、その後雪男にこってり絞られた。