この家の兄弟は皆最後まで口を挟まず話を聞いてくれる。

何度も言葉に詰まりながら最後まで話を終えた雛菊は、小さく相槌を打ってくれていた輝夜に詰め寄った。


「まだ元夫は生きているのでしょうか…?」


「…さて、私にはなんとも。ですが警戒は怠らぬ方がいい。話の限りではとても執念深く嫉妬の炎に巻かれて‟闇堕ち”したと見える。そうなればとてつもない力を発揮することが多いため、天満、お前が付かず離れず傍に居るのが最善策でしょう」


「はい、そうします。僕は死んでないと思ってるから、警戒は怠りません。ああ…あの時崖まで追い込むんじゃなかった」


後悔する天満に慈愛の微笑を向けた輝夜は、夕暮れが近付いてよりいっそう暗くなった空を見上げた。


「では久々に兄さんについて行こうかな」


「僕も僕も」


兄弟の結束力はとても強く、雛菊はまだ不安だったもののこの家には妖の中でも最強と謳われる者が多く居るため何も起こらないと信じていたため、ずっと握っていた天満の袖を離した。


「行ってらっしゃい。明日は鬼陸奥に戻るからなるべく早く帰って来てね」


「うん、雛ちゃんも身体冷やさないようにするんだよ」


朔、輝夜、天満――まばゆい光を発する生き物三人の美貌に目が潰れそうだった雛菊は、先にその場から離れて天満の部屋に戻った。

輝夜は雛菊を見送った後、口角を上げて意地悪げな笑みを見せた。


「お前の童貞喪失の話を聞いていませんでしたね。さあ詳細を」


「あ、あはは…朔兄助けて…」


「俺は一度聞いたけど、さあもう一度」


兄ふたりににやにやされながら詰め寄られ、もみくちゃにされながら猫可愛がりされた。