朔と天満が百鬼夜行に出て行った後――ひとつ不安に思っていたことが解消された雛菊は、客室にひとり座ってそわそわしていた。


「良かった…本当に良かった…」


「何が良かったの?」


「!息吹様…」


独り言を聞かれて顔が赤くなった雛菊は、熱い茶と茶菓子を持って遊びに来てくれた息吹を招き入れて火鉢を引き寄せた。


「嬉しそうだね、良いことがあったのなら聞きたいなー」


いつもにこにこしている息吹はなんでも笑顔で聞いてくれそうで、本当は一番に天満に聞いてもらいたかったのだが、もそっと息吹に近寄って座り直した。


「あの…実は…月のものが来たんです」


「うん…?えっと…毎月あるものだよね?」


「私…旦那様…いえ、駿河さんに乱暴されて…その時に身籠っていたらどうしようってずっと不安だったから」


「!そっか…その時天ちゃんが助けに来てくれたんだよね?」


「そうなんです。だから天満様と心を通わせ合っても月のものが来なかったらどうしようってすごく不安だったんです。でもさっきお腹が痛くなって厠に行ったら…」


――息吹は正直かける言葉を失った。

だが元夫との間に子ができていたらと気が気でなかった雛菊の心情を思うと、そっとその手を握って笑いかけた。


「じゃあ正式に夫婦になったら天ちゃんと赤ちゃん作らないとねっ」


「はい、月のものが来たのが昨晩じゃなくて良かった。でないと抱いてもらえなかったから」


「…え?」


「……えっ?」


――何かまずいことを言っただろうかと考えたが――息吹の顔が圧倒的にきょとんとしていたため、雛菊は恐る恐る繰り返した。


「昨晩その…天満様と一夜を共に…」


「………天ちゃんったら!!」


「!?」


息吹の頬がみるみる膨れたため、言ってはいけないことを言ってしまってしまったと思ったが、もう後の祭り。


「嫁入り前の女の子に手を出すなんて!あ、でもちょっと待って!天ちゃんもしかしてはじめてだったんじゃない!?じゃあお赤飯炊いた方がいいのかな!?私主さまに相談して来…っ」


「待って!待って下さい!な、内緒でお願いします!」


ふたり慌てふためいてあたふた。