天満つる明けの明星を君に【完】

朔が百鬼夜行から戻った時、天満の部屋に結界が張られている気配がしてほくそ笑んでいると、雪男がきれいな顔を歪めて朔から離れた。


「すげえ笑ってるし。なんだよ」


「いや、やっぱりそうなったなと思っただけだ」


「は?」


「すぐ分かる」


そして風呂に入る前に雪男が出してくれた茶を飲んでいると、帰って来たのを察したのか、天満が雛菊の手を引いて居間に来た。


そのあからさまな変化に朔は茶を吹き出しそうになりながら、天満を見上げた。


「俺の言った通りになっただろう?」


「お帰りなさい朔兄。やっぱり朔兄はすごいです。っていうか…母様たちに話す前に朔兄に話しておきますね」


天満はいつも通りだったが――雛菊はどこか気怠さを纏っていて、それにもまた吹き出しそうになって笑いを噛み殺しながら天満と向き合って座り直した。


「なんだ?」


「僕、雛ちゃんをお嫁さんにします」


「うん。それで?」


「えっ。い…いいんですか?朔兄を差し置いて先にお嫁さんを貰うんですよ?」


「いや、俺はまだ当分先になると思うから別にいい。と言うよりも俺の許可は必要ないぞ。雛菊、良かったな」


まだ眠そうな顔をしていた雛菊は急に朔に声をかけられて背筋がぴっと伸びると、深々と頭を下げた。


「ありがとうございます。ですが私は出戻りで…」


「お前の置かれていた状況を考えれば誰だって離縁した方がいいと言う。まあ俺は幼い頃からこうなると思ってたから」


ふたりがえっと声を上げると、息吹が居間にひょっこり顔を出して首を傾げた。


「みんなおはよ。ご飯作るから待っててね。みんなにこにこしちゃってどうしたの?」


「母様、後で話します。僕も手伝いますよ」


「わ、私もっ」


「じゃあ俺は風呂に入って来る」


――天満と雛菊がふたり手を繋いで立ち上がった。

息吹はそれを見て見ぬふりをしつつ、台所に向かいながら握り拳を作って密かに喜びを爆発させていた。