天満つる明けの明星を君に【完】

雪男とひとしきり話した後、雛菊の様子が気になって与えられた客間へ行くと、雛菊はひとり膝を抱えてぼんやり座っていた。

部屋は寒く、火鉢に火が入っていなかったため、様子を見るだけのつもりだった天満は、出入り口で声をかけた。


「雛ちゃん寒いでしょ?火を入れてあげる」


「あ、天満様…さむ…っ。気付かなかった…」


「何か考え事でもしてたの?」


棚から火打石を取り出して火鉢に火を入れた天満の顔をじっと見た後、雛菊は思い切って寒さも忘れて考えていたことを打ち明けた。


「天満様…私…呆れられてないよね?」


「え?」


「だってさっききれいな方と楽しそうにしてたから…。天満様が女の方と親しげに話してるのはじめて見て…」


――それは誤解なんだと言いかけた天満は、朔が考えた案を遂行すべく、小さく笑って見せた。


「今まであんまり女の子と話したことはなかったんだけど、意外と話せて自分でもびっくりしてるよ」


「だからもう…私のことはいいってこと…?」


ものすごく不安そうにしている雛菊に、心が痛んだ。

荒療治になることは最初から分かっていたが、このまま時間を置けばお互いに良くないことも分かっていた。


「…そういうわけじゃないけど、久しぶりに帰って来たんだから、僕が成長したとこも皆に見てもらわないとね」


立ち上がった天満は、敷かれた床を指して手を振った。


「もう寝た方がいいよ。お休み」


「…お休みなさい」


――部屋を出た天満は、深い息をついて額を押さえた。


「…こんなこと、長く続けてられない」


恋の炎に蝕まれてしまう。

鬼族にとって恐ろしい恋の病に罹ってしまうことだけは避けなくては。


「好き同士なのに…変な話だ」


呟きながら自室に着くと、朝まで布団を被って過ごした。