天満つる明けの明星を君に【完】

見回りを終えて居間の前に戻って来た雪男に手を上げた天満は、眉を上げた雪男に盃を差し出した。


「ちょっと話そうよ」


「おう、それはいいけど…お前なんかあったのか?やけに静かだけど」


長年父のように――時には兄のように傍に居て育ててくれた雪男が見抜けないわけがない。

苦笑した天満は、透き通るような美貌に苦笑を滲ませて、澄み切った夜空を見上げて白い息を吐いた。


「雛ちゃんのことだよ」


「ん、主さまに金の無心しに来たんだろ?文でやりとりしたんだから別に帰って来なくても良かったのに」


「いや、筋は通さないと。あと…僕と雛ちゃんの事情を知ってほしくて…」


そこでぴんときた雪男は、天満の隣に腰かけてくいっと盃を煽った。


「あー、もしかして、そういう仲に…」


「いや、その…想いは一緒なんだけど…ちゃんとした恋仲ではないというか…」


「ふうん、まだ抱いてないってことか?なんで?」


なんで、と言いたいのはこちらで、事情をかいつまんで話した天満は、盃に酒を注ぎながら伏し目がちになった。


「そういうわけで、今気まずい雰囲気なんだ。ここに帰って来たら何か変わるんじゃないかと思って」


「それで毛倡妓といい感じに見せて嫉妬させたかったと?それ主さまの案なんだな?ははっ、青い青い」


…ここにやって来る前はこの男、かなり遊んでいたと父から聞いたことがある。

縋る思いで距離を詰めて座り直した雪男は、その真っ青な目を覗き込んだ。


「で、うまくいくと思う?」


「そうだなあ、お前ら若いんだし、その案試してみろよ。確かに鬼族の気質的にはそれで引っかからなけりゃ相当深刻に心的な問題があると思うぜ」


「それ僕の心的にも良くないんだけど」


「毛倡妓と雛菊にゃ悪いがやってみる価値はあるぜ。お前に足りないのは自信だ。せっかく男前なんだからちゃんと生かせよ」


「ははは…」


また白い息を吐いて、雪男と盃を傾けた。