天満つる明けの明星を君に【完】

十六夜は元々無口なため、もっぱらよく喋っているのは息吹だった。

息吹と雪男が繰り広げる昔話は雛菊にとってとても面白くて楽しくて興味深いものだったが…

家族と一緒で気が楽になった天満は縁側で酒を飲みながらその話を笑いながら聞いていた。

幽玄町は鬼陸奥と違ってまだそんなに寒くはなかったが――天満が火鉢のある温かい室内より寒い縁側に座っているのは、熱に弱い雪男のためだと悟って、雛菊も縁側に出て傍に座った。


――息吹は殊更自身の色恋に関しては鈍感だったが、他者の色恋に関しては何故か聡いところがあり、天満にぴったり寄り添っている雛菊を見て思わず前のめりに首を伸ばして十六夜に諭された。


「…息吹」


「主さま…私の勘違いじゃなければ…雛ちゃんって天ちゃんのこと…」


十六夜は他者の色恋に全く興味はなかったが、息子の色恋はさすがに少し興味があったものの、口を挟むことはしない。

小さく首を振ると、息吹ははっとして両手で口を覆った。


「やだ私今‟主さま”って言っちゃった!全然慣れなくて困っちゃう」


そう言ってなんとか誤魔化したものの――ちらちら天満を盗み見している雛菊はやはり天満に恋をしていると分かった。


「もう夜も遅いし私は寝ようかな。ねっ、十六夜さんも一緒に寝るよね?」


「!!……そ、そうだな」


息吹は妖のように日中眠ったりせず、夜が来れば早く寝る。

十六夜は朔に当主を任せて以来息吹と同じように夜眠るのを心掛けていたが――皆の前でそれを暴露されると、赤くなった顔を見られまいとぷいっと顔を背けた。


「天ちゃんは雛ちゃんとお部屋でゆっくりお話したら?雪ちゃん、後はお願いね」


「了解」


十六夜と息吹が居間を後にすると、雪男は見回りのため一旦その場を離れた。

実質ふたりきりになった天満は、妙な沈黙が流れて頬をかくと、雛菊の顔を覗き込んだ。


「今日は疲れたでしょ、部屋でゆっくりするといいよ」


「天満様は…?」


「僕は雪男ともうちょっと話をするから」


「…うん、分かった。お休みなさい」


「ん、お休み」


――何故かほっとした。

ほっとしてしまって、雛菊が去った後何度も頭を拳で殴って戒めた。