天満つる明けの明星を君に【完】

「ふうん、その髪って切っても切っても伸びるんだね」


「ある程度の長さからは伸びませんが…髪を洗うのが大変なんです」


「それはそうだろうね、乾かすのも大変そう」


意外と会話が弾み、酒を飲み交わしていると余計に話せるようになった天満は、後ろから朔に肩を叩かれて振り返った。


「じゃあそろそろ行ってくる。今日は父様も母様も泊まって行くらしいから相手を頼んだ」


「ええ?僕も一緒に百鬼夜行に出ようかと…」


「たまにはのんびりするのも必要だぞ。じゃあまた明朝」


「たまにはのんびりってそれ僕が朔兄に言いたいんだけど。行ってらっしゃい」


別れを惜しむ毛倡妓にまたね、と声をかけた天満は、頬を染めて朔と共に百鬼夜行に出て行った後ろ姿を見送った。

慎ましやかでいい娘だったなと内心褒めながら縁側から居間に戻ると――何故か皆がにやにや。

嫌な予感がして立ち止まっていると、息吹は天満に駆け寄って袖を引っ張ると、隣に座らせた。


「毛倡妓ちゃんのこと気に入ったの?」


「あー…えーと…かしましくなくて、いい娘でした」


「天ちゃんったら成長しちゃって!あ、そうだ、天ちゃんのお部屋掃除しておいたよ。物は何も動かしてないと思うけど、確認してもらっていい?」


「あ、はい」


天満が立ち上がると、それまでずっと黙って俯いていた雛菊もさっと立ち上がった。


「私も一緒に行っていいですか?」


「え?うん、いいけど…何もないよ?」


それでもいいんです、と言った雛菊を伴って長い廊下を歩いていると、ふいにぎゅっと帯を引っ張られて立ち止まった。


「雛ちゃん?」


「…天満様って人見知りじゃなかったんですか?」


「うん、そうだけど…さっきはなんでか普通に話せたなあ。毛倡妓が慎ましやかだったから」


「…」


雛菊が黙り込んでしまい、ぽりぽり頬をかいた天満はまた歩き出して自室に着くと、中に入ってあまり調度類のない部屋の真ん中に立った。


「ほら、なんにもないでしょ」


雛菊の眉間に皺が寄っていた。

だが天満はその理由を訊かず、自室を出てまた居間に向かった。

雛菊はずっと黙っていた。

天満もまた、ずっと黙っていた。