天満つる明けの明星を君に【完】

夕餉を食べ終えると、雪男が大きな酒樽をひとつ用意して庭の真ん中に置いた。


「今日は天満が帰って来てるから百鬼夜行を少し遅らせる。これは主さまからだから、皆で存分に飲め」


おお、と歓声が沸き、皆が酒樽に殺到して騒がしい宴が始まった。

雛菊は多種多様な種族が集まっている百鬼に少し怖じ気づいていたが――天満の言うように、確かに皆が笑顔で恐ろしいという印象はない。

…しかも二割近くが女の妖であり、朔や雪男…そして天満に色目を使ってあの手この手で話しかける口実を作って近付いてきていた。

天満は今まで女の妖と一対一で話したことはなかったが…今夜は毛倡妓(けじょうろう)というものすごく長くて美しい黒髪の女と談笑していた。

これが意外と以前より普通に話せることに本人が一番驚いていたが…

毛倡妓は顔も美しく教養があり、天満の苦手なかしましい女ではなかったため、普通に話すことができていた。


「お?天満…あいつ女と話せるようになったのか?」


「そうみたいだな。独り暮らしを始めて自立して意識が変わったのかも」


「そりゃ良かったな。あいつ絶対生涯独り身だと思ってたからすげえ意外なんだけど」


雪男の本音に朔が笑いを噛み締めていると――それを息吹の傍で見ていた雛菊は、あからさまにむっとしてしまって俯いた。


「天ちゃんが女の子と話してるなんて雛ちゃん以外ではじめて見たかも。天ちゃんあっちでもあんな感じ?」


「…いえ、私も見たことはないですけど…知らないところで実はああしてお話してるのかも」


「良かったあ、天ちゃんすっごく女の子苦手だから心配してたけど…成長したんだねっ」


息吹はそう言って喜んでいたが――


「…天満様…」


雛菊は気が気ではなく、やきもきしながらふたりが談笑している姿から目を離すことができなかった。