天満つる明けの明星を君に【完】

夕暮れが近付くと、庭には続々と百鬼たちが集まってきた。

百鬼夜行に出る前に家族で食事をする慣習のある朔たちは、いつも以上に食卓に大量の料理が乗っているのを見て目を真ん丸にしていた。


「母様、すごい量ですけど…」


「でも全部食べれるよね?天ちゃんの好物とか朔ちゃんの好物とか、とにかく作れるだけぜーんぶ作ってみました!」


「あ、あの、息吹様…私もお手伝いすれば良かったですよね…ごめんなさい」


「雛ちゃんはお客様なんだから座ってればいいの!さ、みんなで食べよ!」


その頃には遅れてやって来た十六夜が到着して、相変わらずの無表情でいて冷淡な冴え冴えとした美貌に雛菊が気後れしていると、隣に座っていた天満はそんな父をからかった。


「父様は怒ってるわけでもなければ、あれが地顔だから怖がらなくていいんだよ」


久々に帰って来た天満の雰囲気がどこか変わったような気がしてじっと見ていた十六夜は、鼻を鳴らして腕を組んだ。


「…天満、お前また強くなったか?」


「え?ああどうでしょう…あっちに行って戦いがずっと続いていたので自信がついたのかも」


「…そうか。こっちに戻って来たら、朔の手助けをしてやってくれ」


十六夜も息吹も、天満と雛菊が恋仲にあることはまだ知らない。

と言うよりも、今のふたりの雰囲気ならば、どこからどう見ても恋仲には見えない。


「わあ、これ美味しい…!どうやって作るんですか?」


「それは天ちゃんの好物だよ。後で作り方教えてあげるね」


――ここで息吹に箸の使い方から食べ方まで教わった。

それで興味が湧いて、誰も食べない料理をひとり作って食べていたことが実を結んで、天満の世話係を任じられるきっかけともなった。


大量の料理は次々と皆の胃袋に消えていき、呆気に取られていると、息吹が少しずつ料理を皿に盛って雛菊の前に置いた。


「はいこれ雛ちゃんの分だよ。うちはみんな食欲旺盛だからすぐなくなっちゃうの。雛ちゃんはゆっくり食べてね」


あの頃から何も変わらない息吹の可愛らしい笑顔に癒されて、ふいに涙が出そうになって俯いた。


相変わらず温かい家——家族。

憧れが今、目の前にある。