天満つる明けの明星を君に【完】

朔の提案は、天満にとってとても勇気の要るものだった。

とぼとぼとした足取りで母屋に戻って来た天満は、縁側に力なく腰かけて、朔に再度問うた。


「本当にやるんですか…?」


「ああ。鬼族の女なら間違いなく策中に嵌まる。嵌まらなければ、お前に対しての想いはそんな程度のものということだ」


そう言って笑った朔は、傍で膨大な文の整理をしていた雪男の袖をくいっと引っ張って気を向かせた。


「んあ?」


「今夜の百鬼夜行は少し遅らせる。天満が戻って来たから宴でもしてほろ酔い気分で行く」


「ほろ酔いって…主さま酔ったことねえだろ。分かったよ、集まれる百鬼には声かけとく」


後は万能な雪男に任せて満足げな朔は、相変わらず真っ青になっている天満の肩を何度も叩いた。


「雛菊を嫁に欲しいんじゃないのか?」


「え…ああ…はい、そうですけど…母様たちがなんというか」


「何も言わない。むしろ兄弟の中で所帯を持つのが最も遅いと思っていたお前が嫁を貰うと言って大喜びする。…あ、如月は例外だぞ」


それでもまだ躊躇っていると、与えられた客間で少し寛いで居間に来た雛菊とはたと目が合い、途方に暮れた表情を見られてしまった。


「天満様…どうしたんですか?」


「う、ううん、なんでもないよ。あ、そうだ、今夜は庭に沢山妖が来るけどみんないい連中だから怖がらないであげてね」


こくんと頷いたのを見て、やはりこのまま雛菊を諦めることができないと思った。

ということは策に乗るしかなく、大きく深呼吸をしてこそりと朔に囁いた。


「乗ります。僕…やってみせます」


「ん。問題が起きたらどうにかするから任せろ」


自分より遥かに心配性な兄の太鼓判を得て、肝が据わった。