天満つる明けの明星を君に【完】

「ふうん…拒絶反応か」


「はい。いや、本当にその…もうすんでのところで拒否されて、呆気に取られたというか…ちょっと立ち直れなくなりそうになって…」


「まあそれはそうだろうな。激しい暴力を受けた後すぐにお前を受け入れるわけがない。本人は大丈夫と思ったんだろうが、すぐ忘れられるものじゃないだろう」


「それで僕もどうしたらいいか分からなくなって、雛ちゃんには積極的に触れてはいません。雛ちゃんも気付いてて僕にはあまり触れてこない気がします」


…なんともじれったい展開だ。

両想いなのに全然前進していないふたりの仲は、朔にとってはだが既定路線だった。

何故かというと、ふたりとも積極的な性格ではなく、人見知りをしたり口下手になったりする。

両想いになったからといってすぐ男女の仲に発展はしないだろうと予想していた朔は、鯉に餌をやりながら水面を眺めた。


「で、お前はどうしたいんだ?」


「僕も雛ちゃんを避けたりして申し訳ないと思ってますけど、このままだとだんだん僕も雛ちゃんに触れるのが怖くなりそうで…以前のような関係に戻りたいです」


――ふたりの間に大きな変化がなければ今の状況は変えられそうにもない。

朔は広大な庭のあちこちからこちらを盗み見している気配を感じてくるりと振り返り、天満に輝くような笑顔を向けた。


「え…やだなあその笑顔…嫌な予感しかしない…」


「策をひとつ講じてみよう。それが駄目なら…時間が解決するのを待つ他ない」


「な、なんですか?僕、何かしなきゃいけないんですか?」


「うん、頑張れ天満。お前の行動次第で雛菊との仲は元通り…いや、発展するかもしれない」


「はあ…なんですか?」


朔は天満の肩を抱いて耳元でごにょごにょその策とやらを天満に話した。

天満の顔色はみるみる青ざめていったが…朔は面白い玩具を見つけたかのように輝かしい笑顔で天満を小突き回した。