天満つる明けの明星を君に【完】

庭の外でがらがらと車輪を引くような音がして顔を上げた天満は、雨戸を開けて外に顔を出した。


「朧車…もう来てくれたんだね」


「はい、主さまが文を読んだ後すぐ呼ばれまして、すぐ向かうようにと」


「助かるよ。もう寒いから猫又に乗るのは雛ちゃんがつらいんじゃないかと思ってたから。乗せてもらってもいい?」


「ええ、どうぞ」


冷気が室内に入ってきたことで身震いして目覚めた雛菊は、御簾の先端に大きな男の顔がついた朧車を見てぎょっとして後退った。


「おはよう雛ちゃん。朧車が幽玄町まで連れて行ってくれるから乗って乗って」


「ま、待って…顔を洗って…お化粧して…あとそれから…」


「いいけどなるべく早めにね。そんなに畏まらなくてもいいと思うよ」


「いいえ!天満様の家族にお会いするんだから!きっちりします!」


きっぱり否定されて肩を竦めた天満は、特に実家に持って帰るものもないため外で朧車と談笑していた。

十数分後、手に大きな風呂敷を持った雛菊が出て来ると、思わず吹き出してそれを指した。


「雛ちゃん、それ何が入ってるの?」


「ええと…お饅頭とか…お団子とか…煮物とか…」


「ふふっ、全部食べ物!?」


「だって普段天満様がどんなものを食べてるのかとか知ってもらいたかったし…」


「そんなの気にしなくていいのに。じゃあ行こうか」


御簾を上げて先に乗り込ませると、次いで天満も乗り込んで御簾を下げた。

朧車は巨体だが意外に素早く空を駆けることができるため、幽玄町には昼頃には着くことができるはずだ。


「緊張してきちゃった…」


「大丈夫大丈夫。むしろ僕に対して干渉しまくる家族に引かないでね」


全く揺れもなく快適な時を過ごしつつ、妙な緊張感もありつつ、久々の実家に向けて出発した。