天満つる明けの明星を君に【完】

その夜ふたりで家に戻った天満は、いつものように夕餉を食べて少し酒を飲むと、雛菊の身体がゆらゆらしているのを見て首を傾げた。


「雛ちゃん、眠たいの?」


「うん…昨日あんまり…眠れなかったから…」


話しながらもゆらゆらしていて、それは昨日自分が戻らなかったせいだと気付いた天満は、少し反省して腰を上げた。


「床を敷いて来るから待ってて。明日は長旅になるから早く休んだ方がいいよ」


「天満様も…一緒に…」


もうすでにうとうとしていて今にも倒れ込んでしまいそうになって慌てて身体を支えると、またぎくっとしてしまってその顔を雛菊に見られた。


「天満様…私に触るの…怖いの…?」


「…ごめん、ちょっとだけ怖い。僕からはしばらくの間触らないようにしておくよ。ほら、これに座って」


座椅子を引き寄せてそこに座ったのを確認した天満は雛菊の部屋で素早く床を敷いて居間に戻ったが――その時はすでに雛菊は座ったまますやすや寝ていた。

完全に微睡んでいたため今の会話は覚えていないかもしれないが…自分が雛菊の悩みの種になっているかもしれないと思うと、また反省。


「僕には圧倒的に色恋の経験値がないんだ。だからどうすればいいか分からないんだよ」


…朔はすでに女を知っているし、知らないところできっとそれなりに遊んでいると思う。

帰ったら朔に相談して今後どうすれば聞くのもいいかもしれないと思いながら、恐る恐る雛菊を抱き上げて部屋に運んで床に寝かせた。


「同じ気持ちなのに、触れ合うのが怖いなんて…変な話だよね」


求められたことが嬉しかった。

今まで女とふたりきりで食事をしたり、暮らしたりする日が来るなんて、想像したこともなかった。


そういうことができるのは、今後も雛菊だけだと思った。


「克服しよう。一緒に」


まずは一歩一歩ゆっくりでもいいから、駿河のことを忘れることができますように。


願いながら、雛菊の傍で静かに本を読んで朝まで過ごした。