天満つる明けの明星を君に【完】

少しの間閉鎖していただけだったのに、あちこち埃だらけで、無人の建物が早く老朽化していくことを受け付けの前に立って実感していた。

この一番上には雛菊が住んでいた住居があるが…あそこだけは、全てのものを処分しなければならない。

宿屋を再開させるとなれば、またあの最上階に住まなければならなくなるかもしれないし、心にも傷を負った雛菊のために天満は人手を募って家具などを全て運び出して処分をした。

空になった最上階は想像以上に広く、床を履いていると人の気配を感じて振り返った。


「天満様」


「雛ちゃん…家に居てって言ったのに全く」


「ごめんなさい。でも気になって…。天満様、全部捨てちゃったの?」


「ああ、うん。ごめん、家具だけじゃなくて雛ちゃんの着物とかも全部捨てちゃったんだ。でも化粧道具とかは残してあるよ。着るものに関しては僕が弁償します」


長い間ここで暮らしていた雛菊は、全てのものが捨てられたと言われても怒らなかった。

ほとんどのものは駿河に買ってもらったし、何なら化粧道具だって捨ててもらっても構わなかった位だ。


「じゃあ私が着るものは天満様に選んでもらおうかな」


「ええ…っ、僕あまり趣味が良くないかもしれないから、母様にお願いしようかな」


「母様って…息吹様だよね?また息吹様に会える?」


「うん、もう多分違う所に住んでると思うけど、明日は会いに来てくれると思うよ。ほら雛ちゃん!ここに来たからには手伝ってね。はい箒」


箒を持たされた雛菊は、目元を緩ませて頷いた。

天満の天真爛漫な感じは、息吹にとてもよく似ている。

また会えるのかと思うと嬉しくなって、悩んでいたことを少し忘れることができてふたりで掃除に邁進した。