天満つる明けの明星を君に【完】

数時間後目覚めた天満は、傍に雛菊が座っているのを見てがばっと飛び起きた。

「あれ!?僕…寝てた?」


「うん、ぐっすり寝てたよ。天満様…無理しないでね?」


雛菊も寝ずに待っていたのかどこか疲れた様子で、髪に寝癖がついたままぼんやりしていた天満は帰って来て風呂に入った後の記憶が曖昧で、欠伸を噛み殺しながら外を見た。


「でもやっぱり気になるよ。‟闇堕ち”してたし、生きてるとしたらまた人を襲う可能性が高いから」


「ねえ、主さまに手を貸してもらえない?そうなったらもう…手がつけられないんでしょ?」


「そうだなあ…話だけはしてみるよ。雛ちゃん、お腹空いた。ご飯ご飯」


いつものように振舞ってくれる天満の手にそっと触れた雛菊は、一瞬ぎくっとした天満の顔を見逃さなかった。

…やはり、意図的に触れないようにしているのだと分かると――手を離してにこっと笑いかけた。


「冷めちゃったから温め直すね」


「あ、雛ちゃん……」


呼び止められたが聞こえないふりをして立ち去った。

きっとまた自分に触れると拒否反応を起こすのでは、と気を遣っていることがありありで、優しい天満の心に触れて密かに涙を落とすと、料理を温め直して天満に振舞った。


「今日も行くの?外吹雪いてるからお家に居たら?」


「いや、行くよ。ご飯食べて朔兄に文を書いたらね」


「もし旦那様が…ううん、駿河さんが生きてたらどうするつもり?」


それまで透き通るような美貌に笑みを上らせていた天満の目が急にぎらりと光って怖じ気づくと、天満は目を伏せて箸を置いた。


「殺さないと。‟闇堕ち”したらもう、そうすることでしか助けられない」


「…うん。全部天満様にお任せするから、だから無理はしないで。お願い」


「心配してくれてありがとう。じゃあ部屋で文を書いてくるね」


料理はきれいに平らげてくれた。

すごく美味しかった、と言い残して居間を出て行った天満の背中を見送った雛菊は、吹雪いている外に目をやってため息をついた。