天満つる明けの明星を君に【完】

朝早くに出て行った天満は、翌日の早朝に帰って来た。

その時はもうくたくたで、玄関で出迎えた雛菊は、疲れ切って言葉数の少ない天満の後をちょこちょことついて回っていた。


「天満様お帰りなさい。お風呂の前にご飯食べる?」


「いや、身体が冷え切ってるから先に入って来るよ」


「うん、じゃあご飯用意してるね」


風呂場の前までついて行ったものの、天満に戸を閉められて肩を落として台所に向かって準備を始めた。

天満の好物ばかり作ったため喜んでもらえるだろうかとわくわくしながら居間の食卓に並べたが――遅い。

一時間以上経っても居間に来なかったため心配した雛菊が風呂場に様子を見に行くと――戸は開いていて、中に天満は居なかった。


「え…天満様、どこに…」


――あちこち部屋を見て回り、そしてようやく天満の部屋で真ん丸になって寝ているのを見た雛菊は、傍に座って目の下に少し隈のある顔がやつれているように見えて、泣きそうになった。


きっと懸命に駿河を捜してくれたのだろう。

生死が確認できれば安心して暮らせると思ってくれているのだろう。


「天満様…そんなこと、もういいのに」


昨日は一緒に寝てはくれたものの抱きしめてもくれなかったし、手さえも握ってくれなかった。

もっと触れてほしいと思う反面、また昨晩のように身体が拒否反応を起こすと余計に天満を傷つけてしまう――


「どうしたらいいの…?どうしたら…」


――だがそこでひとつ気付いた。

駿河が逃亡をしてからまだひと月も経っていない。

その間に、確かめなければならないことがある。


「でも距離を置かれるのはいや。天満様…ちゃんと話をして…」


自分ひとりの力で天満を床に移動させるのは難しいため、火鉢を傍に引き寄せて掛布団を2枚重ねて被せた。

そして天満が起きるまで――雛菊は傍で待ち続けた。