手を心臓の上に導かれた天満は、激しく鼓動を打っている心臓の音が掌に伝わってくると、今度は雛菊の手を自身の心臓の上に導いて笑った。


「同じだね。いや、僕の方がかなり速いかな」


「うん、すごく速くなった」


「だってすごく柔らかいからびっくりしちゃって…」


――なんだか緊張感のない会話になってしまい、知識を総動員させて行動に出ようとしつつもおっかなびっくり感が否めない天満は、再度雛菊に問うた。


「本当に…いい?」


「うん。私…天満様のものになりたい」


それで心が決まった天満は、雛菊の首筋に顔を埋めて唇を這わせた。

吐息を漏らす声にまた高揚感が迫ってきて、もうこれ以上我慢できないところまできていた天満は、雛菊が目を閉じるのを見てその柔らかい身体に触れようとした。


――だが突然雛菊に胸をどんと押されて驚いていると、雛菊は――そうした自身の行動に驚いたのか、目を見開いて唇を震わせていた。


「あ…あ……私…私…」


「…雛ちゃん、落ち着いて。大丈夫だから…身体起こしてあげる」


その目は恐怖に濡れていた。

何を思い出したのかは、その目だけで分かった。

…自分を好いてくれているのは間違いないとしても、駿河から受けた筆舌に尽くしがたい暴力は身体が覚えているのだろう。

男の身体の重みで――駿河を思い出してしまったのだろう。


「天満様…私…私…」


「急がなくていいんだよ。僕は雛ちゃんと同じ気持ちだって分かっただけで嬉しいから。少しずつ、少しずつ…忘れていこう。大丈夫…大丈夫」


雛菊の小さくて軽い身体を抱き起こしてぎゅうっと抱きしめてやると、しがみ付いてきた。

口ではそう紳士ぶっていても肌と肌が直接触れ合っている状況に天満は心を乱されそうになり、伏し目がちになりながら羽織を雛菊に着せてやった。


「熱いお茶でも飲もうか。気分が良くなるかも」


「天満様…ありがとう…」


泣き出した雛菊の背中を落ち着くまでずっと摩ってやった。


今はこれでいい。

十分、満たされていた。