現在閉鎖されている宿屋を借り上げて商売を再開させたい―――

拙いながらも一生懸命その思いを訴えた雛菊は、最後まで口を挟まずじっと聞いてくれていた天満に頭を下げた。


「でも資金がないんです。だから…お願いします!私にお金を貸して下さい!」


「うーん、そうだね…」


歯切れの悪い返事に雛菊が表情を強張らせていると、天満はぽんと雛菊の頭に手を置いて、にこっと笑った。


「僕自身は動かせるお金は持ってないんだけど、僕から朔兄に話をしてみるよ。きっと悪いようにはしないから、任せて」


「天満様…!」


何から何まで世話になって、こちらから返せるものがない。

急に申し訳なくなって言葉を紡げずじっと見つめていると、天満は雛菊に盃を持たせて酒を注いだ。


「雛ちゃんが人生をやり直すにはちょうどいい。何もなかったことにはできないし、最初は客足も伸びないだろうけど、そこは僕も協力するから一緒に頑張ろう」


「え…天満様も?手伝ってくれるの?」


「うん。だって僕はまだ鬼陸奥に居る予定だから、雛ちゃんの商売を手伝う位したって朔兄には何も言われないよ」


…なんて優しい男なのだろう、と思った。

強くて美しくて優しい――三拍子揃ってそれで独り身。

人見知りが過ぎて今まで女慣れしていないところも何とも可愛らしく、恋心が一気に沸き上がった雛菊は、酒を一気に呷って、意を決して天満の手を両手でぎゅっと握った。


「ひ、雛ちゃん?」


「天満様…お話があります。聞いてくれる?」


「…うん」


「私…もう知ってると思うけど…あなたのことが好きです。大好きです」


――息が止まった。

告白しようとして、けれど引け目を感じていじいじしていた男の自分よりも先に告白されてしまった天満は、自身を情けなく思いながらも、ものすごく嬉しくなって――雛菊に頬を寄せた。


「雛ちゃん…もう一度、僕の名を呼んでみて」


「…天満様…」


雛菊はありったけの想いを――万感の思いを込めて、名を呼んだ。

身体の奥底から血潮が逆流するのではないかと思うほど身体が熱くなり、喜びで頭がどうにかなりそうになった。


「雛菊…僕も、君のことが好きだよ」


雛菊を抱き寄せた。

ようやく想いがひとつになり、唇を重ね合った。