なんとなくだが――帰路に着く間、あまり会話をすることはなかった。

離縁したとはいえ、だから自分と夫婦になって下さいと言うには性急すぎる気がするし、その機会を待っていましたと言わんばかりではないのかと思うと浅ましく感じて、告白どころではなくなってしまった。


「天満様、今日は腕を振るいます。時間がかかるけど待ってくれる?」


「あ、うん。僕も色々やらなきゃいけないことがあるからいいよ」


家に着くと、雛菊はすぐ氷室に向かって食材を物色しに行った。

天満は家に上がって自室に腰を下ろすと、なんとなくため息をついた。

雛菊にとってとてもめでたいことなのだが――手放しで喜ぶ気にはなれない。

役人が言ったように駿河の骸が見つかったわけでもないため、死んだことは確認できていないからだ。


「どうしようかな…。一旦またあっちに行って確認してみるべきかな…」


ぼんやりしていると、いつの間にかかなり時間が経っていて、雛菊が顔を出しに来た。


「あの…天満様?」


「え?」


「もう夕暮れだけど全然動かないから心配になって…。ご飯できたよ」


「ちょっと考え事してたんだ。楽しみだなあ、何を作ってくれたのかな」


ふたりで居間に移動すると、どこからか机を引っ張り出してきて、その上に所狭しと雛菊の手料理が並んでいた。

兄弟が多く、いつも食卓には息吹の手料理が大量に並んでいるのを思い出した天満はついそれを懐かしんで目を細めた。


「美味しそうだけど、僕ひとりじゃ食べれそうにないから雛ちゃんも沢山食べないとね」


「うん、今日は沢山食べれそうな気がするの。お酒も沢山用意してみました」


「じゃあ食べながらさっき言ってた話を聞こうかな」


「うん!」


――自立した女になる。

そして天満に告白する――

こっそり風呂に入って身ぎれいになった雛菊は、手にじっとり汗をかきながら緊張が高まっていた。