崖から身を乗り出して谷底を覗き込んでいた天満は、複数の気配を感じて肩越しに振り返った。

駿河の仲間は全員屠ったはずだが…

また見知らぬ数十…いや、五十は居る集団が上空や森の茂みから現れたため、天満は身体を起こして立ち上がった。


「駿河の仲間か?」


「いや、違うが、徒党を組んでいるわけじゃないんだが…俺たちは妖なのに人なんかに与しているお前たち百鬼夜行の関係者が大嫌いなんだ。だから死んでくれや」


獣型の者、人型の者、翼のある者――種族のまとまりがない集団に殺気を向けられた天満は、臆することなくため息をついてあろうことか、目を閉じた。


こうなることは、半ば予想していた。

まだ代替わりして間もない朔を狙うには、今が好機なのだ。

先代――つまり父の代の時は向かって来る者は無慈悲でもって制裁されてきたため、この地域は表立った反乱を起こしたことはない。


正直言って烏合の衆を相手にしている時間はないのだが…こうなったらもう仕方ない。


「僕も甘く見られたものだ」


「…なに?」


「たかが五十程度の数で僕を倒せると思っているのか?そんな数じゃかすり傷を負わせることもできないぞ。僕に傷をつけたければ…百以上数を揃えてかかって来い!」


――天満の身体から殺気が吹き出した。

その殺気にあてられた者たちが恐怖のあまり戦意を失って震える中、兄の手前上全力で戦うことをしてこなかった天満は、二振りの刀を持つ腕をだらりと下げて、きれいな顔に笑みを浮かばせた。


「そっちが来ないなら、僕が行く。ひとりも見逃さない」


すぐ近くで刀を構えていたいかにも鬼らしい体格をした男を見据えると、ふっと身体を屈ませたと思った途端目にも止まらぬ速さで肉薄して斬り付けた。

それが合図となり――その地は乱戦となった。