戦闘に慣れていないのは身体の動きから分かっていた。

ぎこちない動きで突進してきた駿河の爪を紙一重で避けた後、柄の先端で駿河の鳩尾を抉るように打った。

一瞬身体が沈んだものの、駿河は天満の肩を鋭い爪が出たまま掴み、血生臭い息を吹きかけて笑った。


「知っているだろうが雛菊は幼い頃から可愛くて、話しかけるにも勇気を振り絞ったものだよ。何度も閨を共にするのを妄想して、雛菊を嫁に貰った時はそれはもう何度も…分かるだろう?」


「…最初のうちは幸せだったとしても、お前の化けの皮はすぐ剥がれて雛ちゃんを怖がらせた。もっと早く異変に気付くべきだった」


右肩に食い込んだ爪の隙間から出血していたが、痛みよりも駿河に対する怒りがこみ上げていた天満は、もう一振りの刀を真横に薙いで駿河を飛び退らせた。


すでに何度も天満から斬りつけられていた駿河もまた‟闇堕ち”していたため痛みは感じておらず、だらだらと出血しながらも全ての恨みつらみを天満にぶつけた。


「お前が現れなければ!雛菊があんな目をすることを知らずに済んだんだ!あんな…女の…恋をしている目なんか見たくはなかったのに!お前が!現れたから!」


――全て全て、駿河の本音だった。

天満はそれを冷静に聞きつつも真摯に受け止めて、振り上げられた駿河の右腕を下段から上段に素早く振り上げた。

駿河の右腕はあっけなく切り落とされて重たい音を立てて地面に落ちた。

その反動か――駿河の身体は数歩後方によろけて、崖の淵でなんとか踏み止まった。

このままでは落ちてしまう――

手を差し伸べながら駆け寄ったが、駿河は…満面の笑みを浮かべてそのまま身体を倒して、うねる川に落ちていった。


「若旦那!」


雛菊に会わせなければいけないのに。

小さく舌打ちしつつ川底に下りようとしたが、そこで違う邪魔に遭った。