次々とあちこちに配置されていたかがり火が落とされて徐々に暗闇が広がっていった。

妖ゆえに暗闇でも何ら問題はないが――恐怖感はやはりどんどん増してゆく。

そんな中ひとり逃走しようとしていた駿河は、叫び声が止んだことで足が止まってしまった。


「まさか…皆やられたのか…!?」


――すぐ傍を青白い何かがすうっと流星のように流れていった。

一体これは何だろうかと考えた結果…

それは、天満が音もなく近付いてきて、あの真っ黒で少し切れ長の目に燈る青白い炎であると分かると、全身が粟立った。


だが天満は手を出してくることなく周囲をそうやって目にも止まらぬ速さで駆け抜けてゆくだけで、攻撃してこようとはしない。

一応護身用のために刀を持ち歩いていた駿河は、恐怖で歯をかちかち鳴らせながらも時々見える青白い炎に呼びかけた。


「わ、私を殺しに来たのか!?」


「…」


返事はなく、いつもは狩る側の立場に居るはずの自分が狩られる側に立っていると思うと、矜持だけは高い駿河を奮い立たせた。


「雛菊を物欲しそうに見ていたのは知っていた!だがあれは私の妻だ!私が何をしようと、お前には関係ないはず!夫婦のもめごとに口を挟むな!即刻手を引け!」


「…離縁しろ。それが雛菊のためだ」


「別れさせて、次は物欲しそうに見ていたお前が雛菊を娶るというのか!?…駄目だ、それだけは絶対に!」


――鬼火がぽつぽつと辺りを飛び交った。

感情が高ぶる時に現れるその美しい青白い炎を見上げた駿河は、大木の枝の上に立っていた天満を…その表情に、震えが止まらなくなった。


「罪深いお前と共に落ちてゆく雛ちゃんは見たくない。雛ちゃんはお前の悪行を止めようとして助けを求めて来たんだ。…お前を救おうとしていた。だがもう僕は知ったぞ。雛ちゃんの父を殺して我が物にしたことを」


全て知られていると分かった途端、腹が据わった。

どうせ殺されるならばこの命、華々しく散らしてみせる。


「…だから、何だというんだ?」


駿河の身体から真っ黒な炎が噴き出した。


‟闇堕ち”が始まった。