完全に気配を絶ったからこそ――駿河たちは安心していつものように肉を食んでいた。

人の肉を口にすると、途方もない力が湧いてくる気がするし、その味にうっとりしてしまう。

妖は本来こうして人を食い物にして生きてきたはずなのに――あの鬼頭家が百鬼夜行なんか始めたため、肩身の狭い思いをしてきた妖は多い。


「何故俺たちがこうしてこそこそしながら生きて行かなきゃいけないのか意味が分からない」


「だが鬼頭家の連中は生来からして血統が良く強い妖だ。俺たちが束になっても勝てるとは思えん」


「そうだな、しばらくの間は身を潜めよう。とにかくまずはここを捨てて…」


――秘密の里は粗末な建物しかない。

ここはあくまで狩った人を皆で食う場所であり、住む場所ではないからだ。

木の枝のあちこちにはその肉片がぶら下げてあり、いつでも思うままに人を食うことができたのだが…


「…おい、何か様子がおかしくないか?叫び声が聞こえ…」


里の中心で輪になってどこへ移動しようか話し合いをしていた最中、出入り口を見張っていた者の叫び声が聞こえた。

すぐさま皆が身構えたが――駿河ひとり顔色を真っ青にして、腰を抜かしていた。


「ま、まさか…もう追ってきたのか!?」


「何!?お前まさか…つけられていたのか!?」


雛菊に手を上げ、鬼陸奥から逃走してもうかなり時が流れている。

それでもなおこうして追ってきたということは、見逃すつもりは毛頭ないのだろう。


「天満様…いや、天満だ…鬼頭家の三男の…」


今度は皆が真っ青になり、慌てて出入り口の方へ走っていったが、駿河は一歩も動かず震えていた。


「逃げなければ…!だがどこへ…」


ここまで逃げてくるのにも命からがらだったのに。

柔和に見えるが二振りの刀を持っているということは、相当に腕に自信があるはず。

そして自分は、刀など振るったことはほんどない。


「逃げないと…!」


肉を食って真っ赤になっていた口元を乱暴に袖で拭い、立ち上がった。