随分北へ来た。

風は鬼陸奥に居る時よりも格段に冷たく、ただ天満はその寒さも感じないほどに集中して強い風に髪をなぶられながら上空から眼下を見下ろしていた。

噂話を辿っていくと、やはり駿河は北へ北へ逃げていた。

頻度は少ないが、人が頻繁に襲われているという話が集中している場所がある。

腕を組んで考えていた天満は、峡谷の裂け目にある森の入り口に注目していた。

険しい峡谷の下は川があるがものすごい激流で、妖といえど落ちてしまうと命は落とさずとも、どこまでも流されていってしまい、怪我を負うだろう。

よくこんな場所を見つけたものだと感心した天満は、近くの茂みに降り立って気配を完全に断った。

出入り口は妖しか通り抜けできないよう結界が貼られていて、数時間様子を見ていると、やはり出入りがある。

兄弟の誰よりも我慢強い天満は半日ほどぴくりとも動かず出入り口を見張り、駿河が出てくるのを待った。


――だがいつまで経っても駿河は出てくる様子がなく、明け方を迎えて白みかけた空を見上げた天満は、突入しようと決めてほんの一瞬目を閉じた。


…今から妖を殺める。

数は多くないだろうが、反乱分子を放っておくといずれ朔の手を煩わしてしまうかもしれない。

自分よりもっと心配性なあの兄の気苦労を減らすことこそが弟妹たちの役目であり、駿河だけでなく駿河と共に行動している妖全員を殺める――そう決めた。


「単独じゃなかったってことか。夜が明けたら突入しよう。あ、そういえばこの辺って雪男の里があったはず。後で寄ってみようかな」


あくまで一切の緊張をしない天満はのんびりそんなことを考えながら、雛菊のことを少し考えた。


家族を持って幸せになろうとしただけなのに、今までの人生…雛菊にとって良いものではなかっただろう。


それを、変えてやりたい。


「そろそろ行こう」


寄りかかっていた木から身体を起こし、鞘に手を添えてゆっくり歩を進めた。