「駿河…!何故ここに来たんだ!?」


――歓迎してくれるものとばかり思っていた同志たちは、ようやく北の果てにある秘密の里に着いて疲れ果てていた駿河に追い打ちをかけた。

座り込んでしまいたいほど疲労困憊状態だった駿河は、皆に取り囲まれてものすごい形相で迫られて目を白黒するばかり。


「何故って…私は追われてきたんだ!あの百鬼夜行の主の弟が迫ってきている。皆で一致団結して殺…」


「せっかく知られない程度に人を狩って食っていたのに!お前がここへ来てしまっては俺たちの命も危うい!百鬼夜行の主の血縁の者を敵に回すなんて正気の沙汰じゃないぞ!」


…それは十分分かっている。

悠久の時より人と妖の間に立ち、悪事を働く妖を制裁する役目を担っている鬼頭家に目を付けられれば、もう死んだも同然。

天満は暴力を振るっただけでなく、恐らく雛菊の父を手にかけたことも知っているだろうし、朔のあの言動から察するに――自分が人を食っていることも恐らく知っているはずだ。

同志ならばきっと庇ってくれると思っていたが…見込みが甘かった。


「…もうすぐそこまで来ている。皆でここを捨てて違う場所に住もう。皆で戦えば…」


数十人の集団は騒然となり、皆に責められてさらにどっと疲れが出てとうとう秘密の里の入り口で座り込んだ。


「百鬼夜行の関係者を討ったらどうなる…?親玉が…当主が出て来るんじゃないのか…?」


「代替わりしたばかりだと聞いているが、半妖のくせに恐ろしく美しく、恐ろしく強いと聞いているぞ。弟もきっと同じはずだ。だから討ってはいけない。今は散り散りになって逃げるべきだ」


そうだそうだと賛同する声が上がった。

またここから逃げなければいけないのか…

絶望しながらも、駿河は皆に手を差し出した。


「肉を…肉をくれ」


――駿河はもう引き返せないところまできていた。

“闇堕ち”という罪に堕ちるまで、もう間がなかった。