天満は昏い目をしたことがない。

いつも朗らかで強い主張をしたことがなく、周囲と歩を合わせて争いごとを避ける。

そんな天満が目に強い光を宿して家を出た――

朔たちがこれを見たならば、天満の驚くべき進化に目を丸くするところだ。


「あっちは広いけど、争いが起きてる場所を辿ればきっと見つけられるはず」


戦うことが好きだ。

百鬼夜行という生業に小さな疑問は沢山あるけれど、それでも代々行われてきた家業には何かとてつもない意味があり、そして妖と人との間に産まれた半妖としては、両者の間に立ってできることがきっと沢山あるはず。

若旦那の秘密が暴かれた今――今は、雛菊のために全力を賭す。

そして全てが終わったら…


「…駄目だ、今は余計なことを考えるべきじゃない」


ひとりごちて空を駆け、朝方家を出て昼前に日高に着いた天満は、姿を隠すことなく各地の妖が住まう集落を訪ねて回った。

そうすることで駿河を追い詰め、背後から迫られる恐怖や自らが犯した罪の大きさを実感してもらいたかった。


「この辺りにこういった風貌の男は来ませんでしたか?」


詳細に駿河の風貌を語った天満の表情はやわらかく、あくまで罪人を追っている風には見えない。

そして本来ならば絶対にしないのだが――自分に見惚れている者目掛けて話しかけたため、話しかけられた相手は何も疑うことなくうっとりしながら教えてくれた。


「数日前来ましたよ。何か焦っているようで、もっと北の方に行くとか言ってたかなあ」


食事処で聞き込みをした結果駿河が数日前訪れていたことが分かり、天満は丁寧に頭を下げてさらに北へ北へ向かった。


「どこへ逃げても同じだっていうのに」


――今も雛菊の身体につけられた無数の痣が目に浮かぶ。

大切なものを傷つけられて、絶対に許す気はなかった。