久々に見た父の屍は――肌の色が紫色に変色していて、見る影もなかった。

だがもうかなりの時が経っていて骨になっていてもおかしくはないのに、触れれば弾力を感じられるのではと思うほどに瑞々しい。


「雛ちゃんは下がってて。僕が埋め直すから」


両手を合わせて安らかに眠れるよう祈った後、棺を埋め直した。

その間雛菊がずっと‟お父様”と呟いていていたたまれなくなったが、ちゃんと土を均して家に戻り、雛菊を座らせて言い聞かせた。


「僕は若旦那を追って日高に行くから、雛ちゃんにはここで待っていてほしいんだ」


「私も一緒に…」


「待っててほしい。誰かが待ってると思うと、僕っていつも何も考えず先陣切って飛び出してしまうから、雛ちゃんが待っててくれると歯止めが利くから」


本当はついて行きたかったが、ものすごく真面目な顔をした天満にまっすぐ見つめられると何も言えなくなってしまった。


「どの位待ってればいい…?」


「数日かかると思う。じわじわ追い詰めたいんだ。雛ちゃんが味わった苦痛を…雛ちゃんの父君が娘と分かつことができなかった時を奪った悲嘆を…恐怖のどん底に落として、必ず雛ちゃんの前に突き出すからね」


「うん、待ってるね。天満様…全て終わったら私…話したいことがあるの」


「それは奇遇だね、僕も話したいことがあるんだ。戻って来たら、お互い話そうね」


明日から早速日高へ向かうことにした。

相変わらず自制を利かせて雛菊が眠るまで手を繋いで傍に居た後――晴明から譲り受けた強固な結界を張ることのできる札を家の四方に貼り、神経を研ぎ澄ませた。