天満つる明けの明星を君に【完】

脱衣所で着替えている間、天満はずっと背を向けてくれていた。

湯着に着替え終わると今度は雛菊が背を向けたが、素早く着替え終わった天満は雛菊をさっと抱き上げて一旦湯船の前に座らせた。


「ここのお湯は本当に傷に効くよね。雛ちゃんの身体の傷もだいぶ薄くなって…」


「天満様…私これからどうしたらいいんだろ…。また独りになっちゃった…」


「…」


――身体に湯をかけてくれた後また抱き上げて一緒に湯船に浸かり、胸に顔を押し付けて背中に腕を回して抱き着いた。

心細いのは本当で、鬼族の祖とも言える名家鬼頭家の三男である天満の元に出戻りの自分が嫁げるとは思っていない。

今後独りになることは確定であり、何も特技のない自分が独りで生きてゆけるか不安で仕方なくなり、つい天満に縋った。


「雛ちゃんは独りじゃないよ。僕がついてる」


「…今だけでしょ?旦那様の件が済んだらまた幽玄町に戻っちゃうんでしょ…!?」


「それはまだ分からない。僕は朔兄に言われてここに来たんだ。朔兄の目の届かない地域を任されているからには、すぐには戻らないよ」


「じゃあ…その間は一緒に居られる…?」


ごつごつした天満の細い身体に抱き着いていると、安心した。

湯ではだけた鋼のような胸に頬ずりをすると、天満が指で首筋をつっとなぞってきてどきっとした。


「…とにかく若旦那を捜すことを最優先に考えないと。薬はお祖父様に調べてもらうから、その後僕は若旦那を追うよ。ここを留守にすることも増えると思うけど、雛ちゃんの身体が癒えるまではどこにも行かないからね」


…やんわりと話を逸らされた。

だが今はまだ一緒に居てくれると分かっただけで、ほっとした。

今はそれでいいと思った。