天満つる明けの明星を君に【完】

駿河から受けた暴力――いや、凌辱は筆舌に尽くしがたいものだった。

元々歯止めが利かない面はあったが…

暴力を振るいながらも耳元では‟愛している”と囁きつつ、これは夫婦間で営まれる愛の情事ではないと誰が見ても分かるものだっただろう。

…天満に想いを寄せているとはっきり自覚したからには、駿河の要求には応えられなかった。

小さな頃からもうずっと家族を求めていたけれど――駿河の子は産みたくない。

全身で拒絶をしたため逆上した駿河からありとあらゆる暴力を受け、ぼろぼろになったところを天満に助けてもらった。

裸を見られたことを恥ずかしいと思ったが、それを庇う余裕すらなかった。

何かを考えようとしても、何度も頬をぶたれたり頭を殴られたりしたため思考力も奪われて、おかげで食事や風呂の介助も全て天満にしてもらうことになってしまったことは、本当に申し訳ないと思っていた。


「雛ちゃん、少し熱が下がったから今のうちにお風呂に入っておこうか。ちょっと身体が動かせるようになったみたいだから、これを着てね」


天満が差し出してきたのは湯着で、床に座っていた雛菊が顔を上げると、少し頬を赤らめながら目を逸らした。


「一応ほら…お互いのために…」


――天満に意識されていると分かるとつい嬉しくなってしまい、手を伸ばして湯着を受け取りつつも、上目遣いでおねだりしてみた。


「でもひとりじゃまだ無理だから、天満様も一緒に…」


「…え?僕も一緒って…湯船に?」


「うん。だってもう寒いでしょ?濡れると冷えるし、それ位なら一緒に……駄目?」


あからさまに戸惑う天満をじっと見つめていると、確かにその方が手間が省けていいと考えたのか、それでも躊躇しつつ頷いた。


「じゃあ僕もそれを着るから、一緒に入ろうか」


天満の手を借りながら立ち上がった。

駿河に受けた暴力の一切合切を打ち明けて慰めてほしかったが、同情はされたくない。

思い悩みながら、風呂場に向かった。